新しくなった【高年齢者雇用安定法】とは?改正点をチェックして長く働ける会社へ
- 記事監修 大堀 優
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税理士・大堀優(オオホリヒロシ)スタートアップ税理士法人代表。1983年、愛媛県出身。2013年に税理士登録をした後、2015年2月に独立開業しスタートアップ会計事務所を設立。 2017年1月、社会保険労務士事務所を併設する。2021年6月に会計事務所を税理士法人化、8月に横浜オフィスを開設。2023年4月に銀座オフィスを開設。
【会社設立をしたい方へ一言】みなさんの不安を払拭できるように、“話しやすさNo.1の事務所”として寄り添ったサポートを心掛けています。なんでもお気軽にご相談ください!
従業員のためにさまざまな制度を整えることは、事業主にとって重要な業務ですよね。
そこでチェックしてほしいのが、高年齢者雇用安定法についてです。
高年齢者を雇用するための法律である高年齢者雇用安定法が改正され、令和3年4月1日から施行されているのをご存知ですか?
「そもそも、高年齢者雇用安定法ってなんだろう…」
「事業主はどんな取り組みをすればいいのかな?」
こうした基本的な疑問をお持ちの方もご安心ください。
本記事では、高年齢者雇用安定法の概要から改正内容まで詳しく解説していきます。
従業員が長く働ける会社づくりを目指し、一緒に理解を深めていきましょう!
- 目次
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高年齢者雇用安定法の概要と改正の内容
高年齢者雇用安定法を一言で表すと、「高年齢者が活躍できる環境整備のための法律」です。
働く意欲があるすべての人が能力を発揮し、経済社会の活力を維持することは、少子高齢化が進む現在における重要な課題となっています。
改正のポイント
改正法の趣旨は、希望する高年齢者が70歳まで働ける環境の整備です。
各事業主は、70歳までの就業機会を確保する措置を実施していく努力が必要になります。
これまでの高年齢者雇用安定法と改正によって追加された内容を、下記の表にまとめました。
今回の改正では、これまでの高年齢者雇用安定法が変更されたのではなく、新しい内容が追加された点に注意してください。
これまでの高年齢者雇用安定法 | 改正によって追加された内容 | |
名称 | 高年齢者雇用確保措置 | 高年齢者就業確保措置 |
対象事業主 | 労働者を60歳まで雇用していた事業主 |
・定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主 ・65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く) を導入している事業主 |
年齢 | 65歳までの雇用機会を確保 | 70歳までの就業機会を確保 |
強制力 | 義務 | 努力義務 |
定年引き上げ |
あり (65歳まで) |
あり (70歳まで) |
継続雇用制度の導入 |
あり (65歳まで) |
あり (70歳まで) |
定年廃止 | あり | あり |
その他 | − | 創業措置支援の導入 |
主に追加された内容は、下記の4点です。
- 労働者がより多くの就業機会を得られるように、雇用に限らず多様な働き方を整備しようという考え(例:業務委託など)
- 70歳までの就業機会の確保
- 努力義務*
- 創業措置支援の導入
*…企業には積極的に努力することが義務づけられるが、法的拘束力や罰則がなく、どの程度対応するかは企業ごとの裁量に委ねられる。
就業と雇用は似ている言葉ですが、それぞれの意味は下記のように異なります。
- 雇用…契約に基づき、会社が労働者を雇うこと。
- 就業…会社との雇用関係に関わらず、労働者が何らかの業務を行うこと。
雇用に比べ、就業はより広い意味で「労働者が働くこと」を指すので、混同しないようにしてください。
事業主は毎年1回、「定年及び継続雇用制度の状況その他高年齢者の雇用に関する状況」の報告が義務付けられています。
本改正により、下記に関する報告が求められることになりました。
- 70歳までの措置に関する実施状況
- 労働者への措置の適用状況
それでは新設された高年齢者就業確保措置について、詳しく解説していきます!
5種類の高年齢者就業確保措置
高年齢者就業確保措置には5つの種類があります。
5種類の高年齢者就業確保措置 | 事業主から労働者への働きかけ |
(1)70歳までの定年引き上げ | 雇用 |
(2)定年制の廃止 | |
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入* *…特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む。 |
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(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 |
創業支援措置(雇用によらない措置) 過半数労働組合等の同意を得て導入 |
(5) 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 |
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
表の(1)〜(3)は労働者を雇用した上での措置、(4)・(5)は労働者の創業支援措置です。
5種類の措置に対して事業者に求められる努力義務と、対象事業主の条件を確認しましょう。
努力義務を負うのは、下記いずれかの事業主です。
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度*を導入している事業主
*…70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。
次に本改正の重要なポイントとなる創業支援措置について、詳しく解説していきます。
創業支援措置と実施の流れ
創業支援措置とは、高年齢者就業確保措置の(4)・(5)を指します。
70歳までの就業確保措置のうち、雇用によらない措置となる点に注意してください。
創業支援措置を実施するには、下記の3ステップが必要になります。
- 計画を立てる
- 過半数労働組合等の同意を得る
- 計画を周知する
① 計画を立てる
創業支援等措置を考える際には、下記をはじめとする複数の事項を記載した計画が必要です。
- 業務の内容について
…高年齢者のニーズを踏まえながら、高年齢者の知識・経験・能力などを考慮した上で決定する。
- 支払う金銭について
…業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力や、業務量などを考慮することが必要。
支払期日や支払方法についても記載し、不当な減額や支払の遅延を防ぐこと。
- 契約の頻度について
…個々の高年齢者の希望を踏まえつつ、個々の業務の内容・難易度や業務量などを考慮し、 適切な業務量や頻度による契約を締結する。
- 納品について
…成果物の受領に際しては、修正・やり直しの要求・受領拒否を不正に行わないこと。
- 契約の変更について
…高年齢者に支払う金銭や納期等の取扱いを含め、労使間で十分に協議を行う。
- 安全・衛生について
…高齢者の能力などに適した業務内容を整備し、さらに事業主が委託業務の内容・性格などに応じた適切な配慮を行うことが望ましい。
計画に必要なその他の事項については、厚労省作成パンフレット「高年齢者雇用安定法 改正の概要」をご参照ください。
② 過半数労働組合等の同意を得る
①の計画について、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。
労働者の過半数を代表する労働組合がない場合は、下記の点に留意して過半数を代表する者を選出しましょう。
- 監督または管理の地位にある者でないこと
- 創業支援等措置の計画に関する同意を行うことを明らかにして実施される投票、挙手などの手続きによって選出された者であって、事業主の意向に基づき選出されたものでないこと
同意を得ようとする際には過半数労働組合等に対して、下記を十分に説明するようにしてください。
- 労働関係法令が適用されない働き方であることと、そのために②の計画を定めること
- 創業支援等措置を選択する理由
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
③ 計画を周知する
過半数労働組合等の同意を得た②の計画を、次のいずれかの方法により労働者に周知する必要があります。
- 常時当該事業所の見やすい場所に掲示するか、備え付ける
- 書面を労働者に交付する
- 磁気テープや磁気ディスクなどに記録し、労働者が記録内容を常に確認できる機器を事業所に設置する(例:電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにするなど)
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
高年齢者就業確保措置の留意事項
高年齢者就業確保措置を実施する際には、留意すべき点が多数あります。
5種類の措置に対する留意事項を確認して、労働者に配慮した措置を実施しましょう!
- (1)〜(5)への全般的な留意事項
- (3)70歳までの継続雇用制度への留意事項
- (4)・(5)創業支援等措置への留意事項
5種類の高年齢者就業確保措置 | 事業主から労働者への働きかけ |
(1)70歳までの定年引き上げ | 雇用 |
(2)定年制の廃止 | |
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入* *…特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む。 |
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(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 |
創業支援措置(雇用によらない措置) 過半数労働組合等の同意を得て導入 |
(5) 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 |
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
(1)〜(5)への全般的な留意事項
まずは、5種類ある高年齢者就業確保措置のすべてに共通する留意事項です。
高年齢者のニーズに応じた措置を実施するために、下記の点を押さえましょう。
- どの高年齢者就業確保措置を実施するかは、労使間で十分に協議を行う。
- 高年齢者それぞれの希望を聴取し、これを十分に尊重しながら個々の措置を決定する。
- 高年齢者がこれまでと異なる業務に従事する場合は、必要に応じて研修や教育・訓練等を事前に実施することが望ましい。
- 対象者を限定する基準を設けることもできるが、その場合は過半数労働組合等との同意を得ることが望ましい。
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、対象者を限定する基準を設けることができます。
その場合の注意点をみていきましょう。
基準を設けて対象者を限定する場合
対象者基準の内容は、原則として労使に委ねられます。
しかし労使で十分に協議した上で定められたものであっても、下記のケースは認められません。
- 高齢者雇用安定法の趣旨や他の労働関係法令に反するもの
- 公序良俗に反するもの
- 事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとする内容
- 「会社が必要と認めた者に限る」、「上司の推薦がある者に限る」などとすること
(3)70歳までの継続雇用制度への留意事項
高年齢者就業確保措置の(3)にあたる、70歳までの継続雇用制度に対する留意事項は下記の3点です。
- 契約期間を定めるときには、70歳までは契約更新ができる措置を講じ、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。
- 特殊関係事業主以外の他社により継続雇用を行うことも可能だが、その場合には自社と他社との間で、高年齢者を継続して雇用する契約を結ぶ必要があること。
- 他社で継続雇用する場合にも、可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識・経験・能力などに応じた業務内容、労働条件とすること。
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
(4)・(5)創業支援等措置への留意事項
高年齢者就業確保措置の(4)・(5)にあたる、創業支援措置への留意事項は下記の3点です。
- 高年齢者のニーズや知識・経験・能力を踏まえて、業務内容や高年齢者に支払う金銭などを決定すること。
- 事業主は労働関係法令による保護の内容を考慮し、就業する高年齢者へ適切な配慮を行うこと。
- 就業する高年齢者が労働災害により被災したことを事業主が把握した場合には、その旨を管轄のハローワークへ届け出ること。
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
高年齢者が離職する場合の取り扱い
高年齢者が離職する場合、事業主は下記3つの対応をとる必要があります。
- 再就職援助措置
- 多数離職届の提出
- 求職活動支援書の交付
これまでの内容と新たに追加された内容を、あわせて確認していきましょう!
① 再就職援助措置
事業主は解雇*などにより離職する高年齢者に対して、下記のような再就職援助措置を実施するように努める必要があります。
*…労働者側に責任がある場合を除く。
- 求職活動に対する経済的支援
- 再就職や教育訓練受講等のあっせん
- 再就職支援体制の構築
② 多数離職届の提出
同一の事業所において、1ヶ月以内に5人以上の高年齢者等が解雇等により離職する場合、事業主は下記の情報をハローワークに届け出なければなりません。
- 離職者数
- 当該高年齢者などに関する情報
③ 求職活動支援書の交付
解雇等により離職する高年齢者が希望するときは、事業主は次の事項を記載した 「求職活動支援書」を作成し、労働者本人に交付することが必要です。
- 氏名・年齢・性別
- 離職する日(離職する日が未定の場合はその時期)
- 職務の経歴(従事した主な業務の内容、実務経験、業績及び達成事項など)
- 有する資格・免許・受講した講習
- 有する技能・知識・その他の職業能力に関する事項
- その他、再就職に資する事項
①〜③の対象となる事業主と労働者
①〜③の対応をすべき事業主と、対象となる高年齢者の条件は下記の通りです。
対象 | ① 再就職援助措置 | ② 多数離職届の提出 | ③ 求職活動支援書の交付 |
事業主 |
原則として、離職時に高年齢者を雇用している*事業主。 *…創業支援等措置を実施する場合には高年齢者と業務委託契約を締結している事業主。 ただし、以下の高年齢者に対しては、当該高年齢者を定年まで雇用していた事業主が実施する。 ・他社での継続雇用制度で、制度の上限年齢(70歳未満の場合に限る)に達した高年齢者 ・他の団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度により就業する高年齢者 |
離職者に「求職活動支援書」の交付を求められた事業主 | |
労働者 |
【解雇その他の事業主の都合で離職する場合】 ・45歳~65歳までで離職する者 ・65歳以上70歳未満で離職する者(本改正により追加) 【経過措置によって離職する場合】 ・平成24年改正の経過措置として、継続雇用制度の対象者について基準を設けることができ、当該基準に該当せずに離職する者 ・65歳以上の高年齢者就業確保措置において、対象者基準に該当せず離職する者(本改正により追加) ・65歳以上の高年齢者就業確保措置において 上限年齢に達したことにより70歳未満で離職する者(本改正により追加) |
【解雇その他の事業主の都合で離職する場合】 ・45歳~65歳までで離職する者 ・65歳以上70歳未満で離職する者(本改正により追加) |
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法 改正の概要」)
今回の改正によって、①〜③の対象となる高年齢者の範囲が拡大された点を押さえておきましょう。
高年齢者雇用安定法 Q&A
改正により問い合わせが想定される質問から、5つを抜粋してご紹介します。
Q&Aを読み、理解をさらに深めましょう!
- 措置の段階的な実施について
- 労使間の合意について
- 定年退職日から空白がある労働者について
- 継続雇用先について
- 高年齢者就業確保措置を講じる必要性について
(参照:厚労省作成資料「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」 )
Q1. 措置の段階的な実施について
高年齢者就業確保措置を段階的に実施することは可能ですか?
高年齢者就業確保措置を段階的に実施することは可能です。
ただし改正法で努力義務として求められるのは、70歳までの就業機会を確保する制度を講じることになります。
そのため、70歳までの制度を導入することに努め続けることが必要です。
すでに67歳までの継続雇用制度を講じている場合についても、同様に努力しましょう。
Q2. 労使間の合意について
労使間の合意は、事業場単位で得るべきですか?
基本的に過半数労働組合等との同意は、事業所単位で得ることが望ましいです。
ただし、下記のような場合まで、企業単位で労使協定を結ぶことを排除する趣旨ではありません。
- 企業単位で継続雇用制度を運用している
- 各事業所ごとの過半数労働組合等のすべてが内容に同意している
Q3. 定年退職日から空白がある労働者について
65歳以上の継続雇用制度として再雇用する際、定年退職日から空白があってもいいですか?
雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日から数日程度空白がある場合でも「65歳以上継続雇用制度」として取り扱えます。
ただし定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、継続雇用制度として認められない場合もあるので注意しましょう。
Q4. 継続雇用先について
継続雇用先として、派遣会社は認められますか?
派遣会社については、下記のように認められる場合・認められない場合があります。
- 認められる…常用型派遣のように、雇用が確保されているもの
- 認められない…登録型派遣のように、高年齢者の継続的な雇用機会が確保されていると言えない場合
派遣会社の形態をよくチェックするようにしてください。
Q5. 高年齢者就業確保措置を講じる必要性について
65歳に達する労働者が当分はいない場合でも、高年齢者就業確保措置を講じる必要がありますか?
高年齢者就業確保措置の実施は、すべての企業に対して一律に適用される努力義務になります。
そのためしばらくは65歳以上の労働者が生じない企業も含め、高年齢者就業確保措置を講じるよう努めることが必要です。
まとめ
本記事では高年齢者雇用安定法について、下記の流れで解説してきました。
- 改正の概要
- 5種類の高年齢者就業確保措置
- 高年齢者就業確保措置の留意事項
- 高年齢者が離職する場合の取り扱い
- 高年齢者雇用安定法 Q&A
これまでの高年齢者雇用安定法と、改正により追加された部分をしっかり把握してくださいね。
事業主は労働者ごとの特性やニーズを踏まえながら、多様な選択肢を整えることが必要になります。
措置の実施や労使間の合意など、具体的な手続きについて困った場合は弊社までご相談ください。
従業員が長く安心して働ける会社を、一緒に目指していきましょう!
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