リニューアルした【年次有給休暇】を確認!リフレッシュできる会社を目指そう
- 記事監修 大堀 優
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税理士・大堀優(オオホリヒロシ)スタートアップ税理士法人代表。1983年、愛媛県出身。2013年に税理士登録をした後、2015年2月に独立開業しスタートアップ会計事務所を設立。 2017年1月、社会保険労務士事務所を併設する。2021年6月に会計事務所を税理士法人化、8月に横浜オフィスを開設。2023年4月に銀座オフィスを開設。
【会社設立をしたい方へ一言】みなさんの不安を払拭できるように、“話しやすさNo.1の事務所”として寄り添ったサポートを心掛けています。なんでもお気軽にご相談ください!
2019年4月から、有給休暇の取得義務化がスタートしました。
会社を経営する上で、労働者が快適に働ける環境づくりは大きな課題です。
本記事では年次有給休暇を「年休」と称し、義務化のポイントや基本ルールを解説していきます。
適切に年休を付与して労働者のリフレッシュをはかり、事業全体の向上を目指しましょう!
- 目次
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年次有給休暇とは?
「有給」や「年休」などと略されることが多いですが、正式名称は「年次有給休暇」。
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。
このように年休は労働者が無理なく働き続けるために大切な制度です。
しかしこれまでは年休を取る・取らないは労働者の裁量に任せられており、取得率が低くても会社は責任を問われませんでした。
そこで2019年4月の改正労働基準法の施行に伴い、対象の労働者*に限り、年休を最低でも年に5日取得させることが使用者に義務付けられました。
*当年の年休が10日以上付与される労働者。
法改正の概要
年休の取得が義務化された根底にあるのは、「働き方改革」。
働き方改革は、働く人びとが多様な働き方を選択できる未来を目指す政府の重要政策です。
使用者は労働者が気兼ねなく年休を取得できるように、労働環境を整える必要があります。
労働者への思いやりを持ちながら、年休について考えていきましょう。
今回の法改正の概要を、
- 取得の対象者
- 義務になること
- 遵守すべきルール
- 違反時の罰則
に分けて解説していきます。
取得の対象者
労働者が年休を取得するための条件は以下2点。
- 雇入れの日から6ヶ月継続して雇われている
- 全労働日の8割以上を出勤している
両方の条件を満たした労働者には、原則として年10日の年休を付与しなければなりません。
労働者に年休を付与する日を基準日といいます。
基準日がいつになるのかは、会社の就業規則によってさまざまです。
基準日は上記の条件を満たした日のほか、入社日になることもあります。
フルタイム労働者の年休
フルタイム労働者には、年休として以下に示す日数が付与されます。
雇い入れの日から起算した継続期間 | 年休の付与日数 |
---|---|
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
3年6ヶ月 | 14日 |
4年6ヶ月 | 16日 |
5年6ヶ月 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
フルタイムとは、職場で定められている正規の勤務時間帯を「全時間帯」勤務する人、またはその働き方のことを指します。
フルタイム労働者に該当するのは、厚生労働省によれば、下記いずれかの条件を満たす「一般の労働者」です。
- 週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上
- 1年間の所定労働日数が217日以上
パートタイム労働者の年休
パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対しては、年休の日数は所定労働日数に応じた比例付与になります。
比例付与の対象となる労働者は、厚生労働省によれば、下記いずれかの条件を満たす労働者です。
- 週所定労働時間が30時間未満かつ、週所定労働日数が4日以下
- 1年間の所定労働日数が48日から216日まで
週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 雇入れ日から起算した継続勤務期間 | ||||||
6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 | ||
4 日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3 日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2 日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1 日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
(参照:厚生労働省HP「年次有給休暇とはどのような制度ですか。…」)
義務になること
労働者に年休を付与するにあたり、使用者として義務づけられることは以下の3点です。
- 年5日の時季指定
- 労働者ごとに年次休暇管理簿を作成し、3年間保存すること
- 就業規則への規定
①:年5日の時季指定
当年の年休が10日以上付与される労働者を対象に、このうち5日を確実に取得させることが使用者の義務です。
対象労働者には、
- 管理監督者…経営者と一体的な立場にある労働者
- 有期雇用労働者…非正規労働者のうち、雇用期間が定められている労働者
も含まれますが、前年度からの繰越し分と合わせて10日以上となる労働者は対象外になります。
基準日から1年以内に、下記のいずれかの方法で労働者に最低年5日の年休を取得させなければなりません。
- 使用者による時季指定
- 労働者自らの請求・取得
- 計画的付与制度(計画年休)
このように取得させた年休の合計が5日に達した時点で、使用者からの時季指定はできなくなります。
ちなみに時間単位の年休は、取得義務がある5日のうちにカウントできないので要注意です。
②:労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存すること
使用者は、労働者ごとに
- 時季(年休を取得した日時)
- 日数(年休を取得した日数、期間)
- 基準日(年休を付与した日)
を明らかにした書類(=年次有給休暇管理簿)を作り、3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇管理簿は必要な時にいつでも出力できる仕組みにすれば、システム上で管理することも可能です。
③:就業規則への規定
休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項の1つとされ、年休についても規定を設けなければなりません。
時季指定や計画付与も就業規則による定めなしに行うことはできないため、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法について、就業規則に記載することが求められます。
(規定例)第○条
1項~4項(略)
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
遵守すべきルール
年休の付与には、遵守すべき事項が大きく3点あります。
- 年休を与えるタイミング
- 年休の繰越し
- 不利益取扱いの禁止
①:年休を与えるタイミング
使用者は労働者の意見を聴取し、労働者が請求する時季に与えることとされています。
労働者が具体的な月日を指定したら、「時季変更権」による場合を除き、その日に年休を与えることが必要です。
時季変更権…労働者から請求された時季に年休を与えると、事業の正常な運
営を妨げる場合には、使用者が年休を付与する時季を変更できる権利。
②:年休の繰越し
労働者が持つ年休の請求権の時効は2年であり、雇用主は前年度に取得されなかった分の年休を翌年度に繰り越して与える必要があります。
③:不利益取扱いの禁止
使用者は年休を取得した労働者に対して、賃金の減額をはじめ不利益な取扱いをしてはいけません。
また経営者として、年休取得義務の趣旨に反する手法をとることがないようにしましょう。
- 取得した年休を欠勤または欠勤に準じて取扱い、賞与を減額する
- 年休の取得を理由に皆勤手当を支給しない
- 年休の取得理由や使い方への回答を強要する
- これまでの休日を労働日に変更し、そこに年休を充てる
- お盆休みや夏季休暇などと称し、労働者に特別休暇と思わせながら年休に充てる
違反時の罰則
年休の年5日の時季指定義務、就業規則への規定に違反した場合には、以下の罰則が科されることがあります。
違反内容 | 罰則規定 | 罰則内容 | |
---|---|---|---|
年5日の時季指定義務 | 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合* | 労働基準法第120条 | 30万円以下の罰金 |
就業規則への規定 | 使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合 | 労働基準法第120条 | 30万円以下の罰金 |
その他 | 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合* | 労働基準法第119条 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
*罰則による違反は、対象の労働者1人につき1罪となりますが、労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を促すこととしています。
年休を管理しやすくするために
年5日の取得義務や労働者ごとの年次有給休暇管理簿など、使用者として責任を果たす義務が生まれた今回の改正。
中途採用などによって人ごとに入社日が異なる会社では、誰がいつまでに年休を5日取得しなければならないのか、細かく管理しなければなりません。
そこで、労働者の年休を管理するのに役立つ工夫をご紹介します。
基準日を統一する
基準日を統一すると、同じ雇用形態の労働者であれば基準日はもちろん、付与日数などを一括して管理することが可能です。
分かりやすい基準日としては、年始(1月1日)や年度初め(4月1日)が挙げられます。
中途採用を多く行っている場合には、入社が月の途中であっても、同月に入社した労働者の基準日を月初めなどに統一すれば同様に一括して管理できるので便利です。
年次有給休暇取得計画表の作成
基準日にその年の年次有給休暇取得計画表を作成すれば、年休をより計画的に付与でき、確実な取得
を実現できます。
- 年度別
- 四半期別
- 月別
などの期間で個人ごとに細やかな計画表を作成すれば、予定変更・業務都合への対応もスムーズです。
また労働者にとっては、事前に取得日時を予定することで、上司や同僚に気兼ねなく、確実に年休をとれるようになります。
これらのメリットを踏まえて、積極的に年次有給休暇取得計画表を作成していきましょう。
労働者思いの年休を!計画的付与制度とは
計画的付与制度(計画年休)も、使用者は労務管理がしやすくなり、労働者はためらいなく年休を取得できるという便利な制度です。
この制度を上手に利用するために知っておきたい3点、
- 計画的付与制度と付与の方式
- 必要な手続き
- 付与の具体例
を紹介していきます。
計画的付与制度を理解し、労働者思いの年休付与を心がけましょう。
計画的付与制度と付与の方式
年休の計画的付与制度(計画年休)は、前もって計画的に休暇取得日を割り振る制度です。
付与日数から5日間を除いた残りの日数が計画年休の対象になります。
計画年休で付与した年休も、取得義務がある5日のうちに含めることが可能です。
計画年休における付与の方式として、以下の3つをご紹介。
- 全体の休業による一斉付与方式
- 交替制付与方式
- 個人別付与方式
業種や業務方法に合わせて、最適な年休の付与方式を活用しましょう。
①:全体の休業による一斉付与方式
- 労働者の範囲:全労働者
- 付与方法:同じ日に一斉に付与
この方式は、製造業など全体の操業をストップできる業種で活用されています。
②:交替制付与方式
- 労働者の範囲:班・グループ
- 付与方法:交替制で付与
この方式は、流通・サービス業など定休日を増やしづらい業種で活用されています。
③:個人別付与方式
計画年休は個人別にも導入でき、労働者の個人的な記念日を年休に充てることも可能です。
- 労働者の範囲:個人
- 付与方法:個人的な記念日に付与(例:誕生日・結婚記念日など)
必要な手続き
計画年休の導入には、
- 就業規則による規定
- 労使協定の締結
が必要になります。
①:就業規則による規定
まず計画年休について、就業規則に規定します。
計画年休を正しく行うために、下記のように明示しましょう。
- 労働者代表との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする。
-
労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
②:労使協定の締結
実際に計画的付与を行うためには、書面による労使協定を結ぶ必要があります。
会社側が労使協定を結ぶ相手は、下記のいずれかです。
- 労働者の過半数で組織する労働組合
- 労働者の過半数を代表する者
就業規則にのっとった内容で締結させましょう。
この労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出る必要はありません。
労使協定で定める5項目
- 計画的付与の対象者
- 対象となる年次有給休暇の日数
- 計画的付与の具体的な方法
- 年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱い
- 計画的付与日の変更
計画的付与の時季に、休業や退職することがあらかじめ分かっている者については、労使協定で計画的付与の対象から外しておきます。
年休のうち、少なくとも5日は労働者の自由な取得を保障しなければなりません。
したがって、5日を超える日数について、労使協定に基づき計画的に付与します。
計画的付与の具体的な方法を定めることが必要です。
3つの付与方式ごとに、規定内容の例を紹介します。
- 一斉付与方式・・・具体的な年休の付与日
- 交替制付与方式・・・班、グループごとの具体的な付与日
- 個人別付与方式・・・年次有給休暇付与計画表を作成する時季とその手続きについて
事業場全体の休業による一斉付与の場合には、5日を超える年休がない者に対しても、次のいずれかの措置をとります。
- 一斉の休業日について、有給の特別休暇*とする。
- 一斉の休業日について、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う。
*特別休暇は確実に取得させるべき年5日の年休の対象にはなりません。
あらかじめ計画的付与日の変更が予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。
付与の具体例
計画年休を利用すると、連休を作ることも可能になります。
- 年末年始や夏季休暇と計画年休を組み合わせ、大型連休を作る
- 個人的な記念日の周辺を計画年休として、アニバーサリー休暇に
- 閑散期に所定休日と計画年休をつなげて短い連休を複数作る
- 暦上、飛び石になっている祝日の間の日を計画年休でつなげる(ブリッジホリデー)
年末年始や夏季休暇と年休をつなげて大型連休にする方法は、一斉付与方式や交替制付与方式と相性が良いです。
アニバーサリー休暇は、個人別付与方式で活用されています。
業務状況や労働者の希望に合わせた付与方法を選びましょう。
年次有給休暇への意識を高め、社内の士気を上げていきましょう!
今回は新しく改正された年次有給休暇について、以下の内容をご紹介しました。
- 年次有給休暇とは
- 法改正の概要
- 年休を管理しやすくする方法
- 計画的付与制度とは
基本ルールや義務化されたポイントを確認し、あなたの会社と労働者にとって最適な年休の付与方法を考えてみてください。
年休への取り組みは、働く人の意欲を高め、社内の明るい雰囲気づくりにも一役買うこと間違いなし。
使用者として年休の付与制度を整え、働きやすい職場づくりに励みましょう!
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