出向が鍵!【産業雇用安定助成金】を利用して雇用の維持に努めよう
- 記事監修 大堀 優
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税理士・大堀優(オオホリヒロシ)スタートアップ税理士法人代表。1983年、愛媛県出身。2013年に税理士登録をした後、2015年2月に独立開業しスタートアップ会計事務所を設立。 2017年1月、社会保険労務士事務所を併設する。2021年6月に会計事務所を税理士法人化、8月に横浜オフィスを開設。2023年4月に銀座オフィスを開設。
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「新型コロナウイルスの影響を受け、経営が苦しい…」
「人員整理に踏み切ろうか迷っている…」
景気の変動を受け、雇用維持に悩んでいる経営者の皆さん!
人員整理を行う前に、新設された助成金の利用を考えてみませんか?
産業雇用安定助成金は、出向を行うことで受給できる助成金です。
本記事では産業雇用安定助成金について、下記の流れで解説していきます。
- 産業雇用安定助成金とは
- 対象となる事業主
- 対象となる出向
- 対象となる期間と日数
- 助成される費用と受給額
- 受給までの流れ
本助成金や出向について理解し、経営危機を乗り越えましょう!
- 目次
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産業雇用安定助成金とは
産業雇用安定助成金がどのような助成金なのか、確認していきましょう。
背景と主体・条件・内容ごとに説明すると、下記のようになります。
背景と主体 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主 |
条件 |
在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合 |
内容 |
出向元と出向先の双方の事業主に対して、出向にかかった賃金や経費の一部が助成される
|
在籍型出向とは、労働者が出向元企業・出向先企業の両方と雇用契約を結ぶ出向のことです。
本助成金のポイントは、出向という手段を用いて労働者の雇用を維持する点になります。
対象となる事業主
本助成金は、下記2種類の事業主が支給の対象です。
- 出向元事業主
- 出向先事業主(出向元事業主から出向労働者を受け入れる事業主)
支給を受けるためには、本助成金に設けられた4つの支給要件から、それぞれ決められたものを満たす必要があります。
支給要件
- 雇用調整の実施
- 解雇等や雇用量の減少がないこと
- その他の要件
- 不支給要件
出向元事業主・出向先事業主が本助成金のために満たすべき要件は、それぞれ下記の通りです。
支給対象 | 支給要件 |
出向元事業主 | 要件①・③を満たし、④に該当しないこと |
出向先事業主 | 要件②・③を満たし、④に該当しないこと |
事業主が満たすべき支給要件について、詳しく見ていきましょう!
①〜④の支給要件について、解説していきます。
①雇用調整の実施
この要件は出向元事業主が満たすべき要件で、下記のように設定されています。
「新型コロナウイルス感染症に伴う経済上の理由」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、その雇用する対象労働者の雇用の維持を図るために、「労使間の協定」に基づき出向を実施する出向元事業主
文中の用語は、それぞれ下記のような意味を持ちます。
- 「新型コロナウイルス感染症に伴う経済上の理由」
…新型コロナウイルス感染症の影響に伴う景気変動や地域経済の衰退など、経済事情の変化によるものを指します。
- 「事業活動の縮小」
…売上高や生産量などの事業活動を示す指標(生産指標)が、一定以上減少していることを指します。
- 「労使間の協定」
…労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表する者との間で、書面によって労使協定が結ばれている必要があります。
(参照:厚労省作成資料「産業雇用安定助成金ガイドブック」 p.2〜3)
②解雇等や雇用量の減少がないこと
本助成金を受給する出向先事業主は、次の要件を満たしていることが必要です。
- 解雇等がないこと
…一定期間*において、出向労働者の受入れに際し、その雇用する被保険者を事業主都合により離職させた事業主以外であること。
*…出向期間の開始日の前日から起算して6ヶ月前の日から、支給申請を行う支給対象期の末日までの間。
- 雇用量の減少がないこと
…雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標(雇用指標)が一定以上減少していないこと。
③その他の要件
出向元事業主・出向先事業主が共通して満たすべき要件で、詳細は下記の通りです。
- 雇用保険適用事業所であること。
- 出向元事業主と出向先事業主の関係性に、独立性が認められること。
- 受給に必要な書類を整備し、適切に提出すること。
- 労働局等の実地調査を受け入れること。
- 本助成金の支給対象期間に出向の実施・受け入れを行わず、他の助成金を受け取っていない(受けようとしていない)こと。
(参照:厚労省作成資料「産業雇用安定助成金ガイドブック」 p.4)
④不支給要件
出向元事業主・出向先事業主が本助成金を受給するためには、不支給要件に該当しないことが必要です。
事業主の不支給要件は、下記の12点になります。
①平成31年3月31日以前に申請した雇用関係助成金について、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けたことがあり、当該不支給決定日又は支給決定取消日から3年を経過していない。
②平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について不正受給による不支給決定または支給決定の取り消しを 受けたことがあり、当該不支給決定日または支給決定取消日から5年を経過していない。
③平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について、不正受給に関与した役員等がいる。
④支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度における労働保険料の滞納がある。
⑤支給申請日の前日から起算して過去1年において、労働関係法令違反により送検処分を受けている。
⑥風俗営業等関係事業主である。
⑦事業主や事業主団体(以下「事業主等」という)、事業主等の役員等が、暴力団または暴力団員である。
もしくは暴力団・暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有している。
⑧事業主等または事業主等の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行ったまたは行う 恐れがある団体等に属している。
⑨倒産している。
⑩産業雇用安定助成金について不正受給を理由に支給決定を取り消された場合、労働局が事業主名等を公表することに承諾していない。
⑪役員等の氏名、役職、性別及び生年月日が記載されている別紙「役員等一覧」または同内容の記載がある書類を添付していない。
⑫「雇用関係助成金支給要領」に従うことに承諾していない。
対象となる出向
本助成金の助成対象は、前述した支給対象となる事業主が、対象労働者に対して実施した出向です。
対象労働者と出向には、それぞれ満たすべき条件があります。
対象労働者
本助成金の対象労働者とは、本助成金を受けようとする出向元事業主に雇用され、本助成金の出向の対象となりうる雇用保険被保険者のことです。
ただし、次のいずれかに該当する場合を除きます。
- 出向計画期間の初回出向日の前日時点において、出向元事業主に引き続き被保険者として雇用された期間が6ヶ月未満である人
- 解雇を予告されている人*
- 退職願を提出した人*
- 事業主による退職勧奨に応じた人*(離職日の翌日に安定した職業に就くことが明らかな人を除く)
- 日雇労働被保険者
*…事実が生じた日までは対象労働者として扱う。
出向とは
本助成金を受けるには、13個ある要件のすべてを満たした在籍型出向である必要があります。
① 雇用調整を目的として行われるものであって、人事交流・経営戦略・業務提携・実習のためなどに行われるものではなく、労働者を交換しあうものでないこと
② 労使間の協定によるものであること
③ 出向労働者の同意を得たものであること
④ 出向元事業主と出向先事業主との間で締結された契約によるものであること
⑤ 出向先事業所が雇用保険の適用事業所であること
⑥ 出向元事業主と出向先事業主が、資本的・経済的・組織的関連性などからみて、独立性が認められること
⑦ 対象期間内に実施されるものであること
⑧ 労働者ごとの出向期間が1ヶ月以上2年以内であって、出向元事業所に復帰するものであること
⑨ 出向元事業所または出向先事業所が、出向労働者の賃金の全部もしくは一部をそれぞれ負担していること
⑩ 出向前に支払っていた賃金とおおむね同じ額の賃金を、出向労働者に支払うものであること
⑪ 出向元事業所から出向先事業所に出向させ、かつ、出向先事業所において就労することになるものであること。
ただし当該出向労働者が、同一出向期間内で異なる2つ以上の出向先事業所において就労するものでないこと
⑫ 出向の実施状況について、労働組合などの確認を受けること
⑬ 出向元事業主と出向先事業主の双方がそれぞれ支給要件を満たすこと
中でも用語が難しい⑥と、賃金に関する⑩を抜粋し、内容を解説していきます。
- ⑥ 出向元事業主と出向先事業主が、資本的・経済的・組織的関連性などからみて、独立性が認められること
- ⑩ 出向前に支払っていた賃金とおおむね同じ額の賃金を、出向労働者に支払うものであること
⑥:出向の独立性とは
出向には、出向元と出向先の事業主が実質的に一体であるとみなされ、独立性が認められないケースがあります。
- 親会社と子会社間の出向
- 代表取締役が同一人物である企業間の出向
この場合、本助成金の支給対象にはなりません。
実質的に一体であるかどうかは、主に以下の方法で判断されます。
- 資本金の50%を超えて出資していること
- 代表者が同一人物であること
- 両法人の取締役を兼務している者が、いずれかの会社について過半数を占めていること
一体であるとみなされるかどうか、よく確認するようにしましょう。
⑩:出向期間中に出向労働者へ支払う賃金について
出向期間中に出向労働者へ支払う賃金*は、出向前の賃金に相当する額にしなければいけません。
*…臨時に支払われた賃金及び3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く。
具体的には、出向前の賃金(A)に対する出向期間中の賃金(B)の割合が、85%〜115%の範囲内*であることが必要です。
*…ただし、B/Aが115%を超える場合であっても、ベースアップの実施等の合理的な理由がある場合は、支給対象となり得る。
これらの計算については、支給申請書類の「 支給対象者別支給額算定調書 ②」(1)〜(4)欄で求めることができます。
出向前の賃金をA、出向期間中の賃金をBとすると、それぞれ下記のように算出されます。
- A=出向開始日前1週間の総所定労働時間数÷出向開始日前1週間の総所定労働日数×出向開始日の直前の労働日に通常支払われる1時間当たりの賃金の額
- B=支給対象期末日以前1週間の総所定労働時間数÷支給対象期末日以前1週間の総所定労働日数×支給対象期の末日の労働日に通常支払われる1時間当たりの賃金の額
そして、Aに対するBの割合が下記の範囲内であることが必要です。
出向前の賃金に相当しない場合は、その出向労働者は本助成金の支給対象外となりますので、注意してください。
対象となる期間と日数
本助成金は、ここまで解説してきた要件を満たす出向について、定められた期間と日数に対して支給されます。
下記の順に確認していきましょう。
- 出向期間および対象期間
- 判定基礎期間
- 支給対象期
- 支給限度日数など
①出向期間および対象期間
本助成金では、下記の期間が支給対象となります。
出向元事業主が、雇用する雇用保険被保険者に対して1ヶ月以上2年以内の期間で実施した出向
この期間について理解を深めるために、出向期間と対象期間について解説していきます。
出向期間
出向期間とは、同一の出向元事業所において、出向先事業所ごとに実施する出向の期間のことです。
同じ出向先事業所に複数の労働者を出向させる場合は、出向開始日のうち最も早い日から、出向終了予定日のうち最も遅い日が出向期間となります。
- アの出向期間=令和3年1月1日~令和3年12月31日
- イの出向期間=令和3年4月1日~令和4年3月31日
対象期間
対象期間とは、出向元事業所が出向を実施する期間のことです。
複数の出向先事業所に出向を実施する場合は、全出向期間の始期のうち最も早い日から、出向期間終期のうち最も遅い日が対象期間となります。
出向先事業所が1つの場合、対象期間は出向期間と等しいです。
- Cの出向期間=令和3年1月1日~令和3年12月31日
- Dの出向期間=令和3年4月1日~令和4年3月31日
②判定基礎期間
出向を行う場合、出向先事業所ごとに出向期間内の実績を原則1ヶ月単位で判定し、それに基づいて支給がなされます。
この出向の実績を判定する1ヶ月単位の期間が、判定基礎期間です。
判定基礎期間は原則として、毎月の賃金の締め切り日の翌日から、その次の締め切り日までの期間になります。
③支給対象期
本助成金は、出向の計画を労働局やハローワークへ届け出し、実施した出向の実績に応じて支給申請を行います。
その際、支給申請の単位となる一定期間が支給対象期です。
支給対象期は計画を届け出す際、出向元事業主が出向先事業所ごとに下記のいずれかを選択します。
- 1つの判定基礎期間
- 連続する2〜6つの判定基礎期間
支給申請の頻度は、計画の届け出時に1ヶ月~6ヶ月の頻度から選択することが可能です。
④支給限度日数など
本助成金は、同一の事業所につき同一の年度に、対象労働者500人分が上限となります。
1人当たりの支給限度日数*は、12ヶ月(365日)です。
*…同一の事業主に雇用された同一の労働者に対する助成金支給の場合。
助成される費用と受給額
本助成金で助成される費用は、下記2種類*に分けられます。
- 出向運営経費
- 出向初期経費
それぞれの助成率・助成額について、理解を深めましょう!
*…受給額の詳細は、厚労省作成資料「産業雇用安定助成金ガイドブック」 p.10〜18をご参照下さい。
①出向運営経費と助成率
出向運営経費とは、下記のような費用を指します。
- 出向元事業主および出向先事業主が負担する賃金
- 教育訓練および労務管理に関する調整経費
助成率は下記の通りです。
条件 | 中小企業 | 中小企業以外 |
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 | 9/10 | 3/4 |
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 | 4/5 | 2/3 |
上限額(出向元・出向先の合計) | 12,000円/日 |
②出向初期経費と助成額
出向初期経費とは、出向の成立にかかった下記のような費用のことです。
- 就業規則や出向契約書の整備費用
- 出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練
- 出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備
また下記のような場合には、助成額が加算されます。
- 出向元事業主が雇用過剰業種の企業や生産量要件が一定程度悪化した企業である場合
- 出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合
助成額と加算額は、それぞれ下記の通りです。
出向元 | 出向先 | |
助成額 | 10万円/1人当たり | |
加算額 | 5万円/1人当たり |
受給までの流れ
本助成金を受給するまでの流れは、下記の5ステップです。
- 計画届の作成・提出
- 出向の実施
- 支給申請
- 労働局による審査・支給決定
- 支給額の振込
①計画届の作成・提出
出向元事業主が、出向の内容をまとめた書類を都道府県労働局かハローワークへ提出します。
主な提出書類は、下記の通りです。
- 「出向実施計画(変更)届(出向元事業主)」(様式第1号)
- 「出向実施計画(変更)届(出向先事業主)」 (様式第2号)
計画届に必要な書類は、下記の11点です。
様式 | 書類名 |
様式第1号 | 出向実施計画(変更)届(出向元事業主) |
様式第1号別紙1 | 出向先事業所別調書 |
様式第1号別紙2 | 出向初期経費に係る計画届(出向元事業所) |
様式第2号 | 出向実施計画(変更)届(出向先事業主) |
様式第2号別紙 | 出向初期経費に係る計画届(出向先事業所) |
様式第3号 | 出向元事業所の事業活動の状況に関する申出書および確認書類 |
様式第4号 | 出向先事業所の雇用指標の状況に関する申出書および確認書類 |
様式第5号 | 産業雇用安定助成金 出向に係る本人同意書 |
確認書類(1) | 出向協定に関する書類 |
確認書類(2) | 事業所の状況に関する書類 |
確認書類(3) | 出向契約に関する書類 |
(参照:厚労省作成資料「産業雇用安定助成金ガイドブック」 p.22)
この他にも、各都道府県労働局長が求める書類を提出する場合があります。
計画届は、出向を開始する前日まで(可能であれば2週間前までを目途)に提出するようにしましょう。
②出向の実施
計画届を提出したら、計画届に基づいて出向を実施します。
③支給申請
次に、行った出向について本助成金の支給申請を行いましょう。
出向元事業主が必要書類を整え、都道府県労働局またはハローワークへ提出します。
支給申請は支給対象期ごとに行い、 申請の期日は支給対象期末日の翌日から2ヶ月以内です。
必要書類
申請時の必要書類は、下記10点です。
様式 | 書類名 |
様式第6号(1) | 産業雇用安定助成金支給申請書 |
様式第6号別紙 | 産業雇用安定助成金出向初期経費報告書 |
様式第6号(2) | 出向元事業所賃金補填額・負担額等調書 |
様式第6号(3) | 出向先事業所賃金補填額・負担額等調書 |
様式第6号(4) | 支給対象者別支給額算定調書 |
様式第6号(5) |
支給要件確認申立書* *…出向元事業主、出向先事業主がそれぞれ作成する |
様式第7号(1) | 雇用維持事業主申告書 |
様式第7号(2) | 労働者派遣契約に係る契約期間遵守証明書 |
なし | 支払方法・受取人住所届 |
確認書類(4) | 出向の実績に関する書類 |
(参照:厚労省作成資料「産業雇用安定助成金ガイドブック」 p.26)
④労働局による審査・支給決定
支給申請した内容について、労働局で出向元・出向先それぞれの審査と支給決定が行われます。
⑤支給額の振込
出向元・出向先に支給決定された額がそれぞれ振り込まれます。
雇用の維持に努め、人員整理を回避しよう!
産業雇用安定助成金について、下記の流れで解説してきました。
- 産業雇用安定助成金とは
- 対象となる事業主
- 対象となる出向
- 対象となる期間と日数
- 助成される費用と受給額
- 受給までの流れ
大切な会社と労働者を守るために、出向について考えてみませんか?
本助成金を受給して、人員整理を回避しましょう!
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